判例情報

★専業主婦(家事従事者)の逸失利益

最高裁昭和49年7月19日判決

<判旨>

 おもうに、結婚して家事に専念する妻は、その従事する家事労働によって現実に金銭収入を得ることはないが、家事労働に属する多くの労働は労働社会において金銭的に評価されうるものであり、これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから、妻は、自ら家事労働に従事することにより、財産上の利益を上げているのである。一般に、妻がその家事労働につき現実に対価の支払いを受けないのは、妻の家事労働が夫婦の相互扶助義務の履行の一環としてなされ、また、家庭内においては家族の労働に対して対価の授受が行われないという特殊な事情によるものというべきであるから、対価が支払われないことを理由として、妻の家事労働が財産上の利益を生じないということはできない。のみならず、法律上も、妻の家計支出の節減等によって蓄積された財産は、離婚の際の財産分与又は夫の死亡の際の相続によって、妻に還元されるのである。

 かように、妻の家事労働は財産上の利益を生ずるものというべきであり、これを金銭的に評価することも不可能ということはできない。ただ、具体的事案において金銭的に評価することが困難な場合が少なくないことは予想されうるところであるが、かかる場合には、現在の社会情勢等に鑑み、家事労働に専念する妻は、平均的労働不能年齢に達するまで、女子雇傭労働者の平均的賃金に相当する財産上の収益を挙げるものと推定するのが適当である。

<コメント>

 本判決は、専業主婦の家事労働の財産性を認めた最高裁判決です。現在の実務は、この最高裁判決に従って、家事従事者の休業損害、逸失利益が肯定されています。

 

★外国人の逸失利益

最高裁平成9年1月28日判決

<判旨>

財産上の損害としての逸失利益は、事故がなかったら存したであろう利益の喪失分として評価算定されるものであり、その性質上、種々の証拠資料に基づき相当程度の蓋然性をもって推定される当該被害者の将来の収入等の状況を基礎として算定せざるを得ない。損害の填補、すなわち、あるべき状態への回復という損害賠償の目的からして、右算定は、被害者の個々人の具体的事情を考慮して行うのが相当である。こうした逸失利益算定の方法については、被害者が日本人であると否とによって異なるべき理由はない。したがって、一時的に我が国に滞在し将来出国が予定される外国人の逸失利益を算定するに当たっては、当該外国人がいつまで我が国に居住して就労するか、その後はどこの国に出国してどこに生活の本拠を置いて就労することになるか、などの点を証拠資料に基づき相当程度の蓋然性が認められる程度に予測し、将来のあり得べき収入状況を推定すべきことになる。そうすると、予測される我が国での就労可能期間ないし滞在可能期間内は我が国での収入等を基礎とし、その後は想定される出国先(多くは母国)での収入等を基礎として逸失利益を算定するのが合理的ということができる。そして、我が国における就労可能期間は、来日目的、事故の時点における本人の意思、在留資格の有無、在留資格の内容、在留期間、在留期間更新の実績及び蓋然性、就労資格の有無、就労の態様等の事実的及び規範的な諸要素を考慮して、これを認定するのが相当である。

在留期間を超えて不法に我が国に在留し就労する不法残留外国人は、出入国管理及び難民認定法24条4号ロにより、退去強制の対象となり、最終的には綿国からの退去を強制されるものであり、我が国における滞在及び就労は不安定なものといわざるを得ない。そうすると、事実上は直ちに摘発を受けることなくある程度の期間滞在している不法残留外国人がいること等を考慮しても、在留特別許可等によりその滞在及び就労が合法的なものとなる具体的蓋然性が認められる場合はともかく、不法残留外国人の我が国における就労可能期間を長期にわたるものと認めることはできないものというべきである。

<コメント>

 本判決は、外国人の逸失利益に関する考え方を示した最高裁判決です。この事案では、不法残留のパキスタン人について、事故後3年間は日本での収入額を、それ以降は本国での収入額を基礎として逸失利益を算定した原審の判断を相当としました。

 

★中間利息控除の利率

最高裁平成17年6月14日判決

<判旨>

 我が国では実際の金利が近時低い状況にあることや原審のいう実質金利の動向からすれば、被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除する中間利息の割合は民事法定利率である年5%より引き下げるべきであるとの主張も理解できないではない。

 しかし、民法404条において民事法定利率が年5%と定められたのは、民法の制定に当たって参考とされたヨーロッパ諸国の一般的な貸付金利や法定利率、我が国の一般的な貸付金利を踏まえ、金銭は、通常の利用方法によれば年5%の利息を生ずべきものと考えられたからである。そして、現行法は、将来の請求権を現在価額に換算するに際し、法的安定及び統一的処理が必要とされる場合には、法定利率により中間利息を控除する考え方を採用している。例えば、民事執行法88条2項、破産法99条1項2号(旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)46条5号も同様)、民事再生法87条1項1号、2号、会社更生法136条1項1号、2号等は、いずれも将来の請求権を法定利率による中間利息の控除によって現在価額に換算することを規定している。損害賠償額の算定に当たり被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するについても、法的安定及び統一的処理が必要とされるのであるから、民法は、民事法定利率により中間利息を控除することを予定しているものと考えられる。このように考えることによって、事案ごとに、また、裁判官ごとに中間利息の控除割合についての判断が区々に分かれることを防ぎ、被害者相互間の公平の確保、損害額の予測可能性による紛争の予防も図ることができる。上記の諸点に照らすと、損害賠償額の算定に当たり、被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は、民事法定利率に寄らなければならないというべきである。

<コメント>

 本判決は中間利息の控除に関して最高裁判所の考え方を示したものです。

 なお、民法改正により、中間利息の控除は、損害賠償請求権が発生した時点での法定利率によることが明文化され、民事法定利率については3%とされることになりました(ただし、3年ごとに見直し)。

 

★国民年金(老齢年金)の逸失利益性

最高裁平成5年9月21日判決

<判旨>

 公務員であった者が支給を受ける普通恩給は、当該恩給権者に対して損失補償ないし生活保障を与えることを目的とするものであるとともに、その者の収入に生計を依存している家族に対する関係においても、同一の機能を営むものと認められるから(最高裁昭和38年(オ)第987号同41年4月7日第一小法廷判決・民集20巻4号499頁参照)、他人の不法行為により死亡した者の得べかりし普通恩給は、その逸失利益として相続人が相続によりこれを取得するものと解するのが相当である(最高裁昭和57年(オ)第219号同59年10月9日第三小法廷判決・裁判集民事143号49頁)。そして、国民年金法(昭和60年法律第34号による改正前のもの。)に基づいて支給される国民年金(老齢年金)もまた、その目的・趣旨は右と同様のものと解されるから、他人の不法行為により死亡した者の得べかりし国民年金は、その逸失利益として相続人が相続によりこれを取得し、加害者に対してその賠償を請求することができるものと解するのが相当である。

<コメント>

 本判決は、国民年金(老齢年金)の逸失利益性を肯定した最高裁判決です。現在の実務では、本判決に従い、国民年金(老齢年金)の逸失利益性が認められています。

 

★障害年金の逸失利益性

最高裁平成11年10月22日判決

<判旨>

 国民年金法に基づく障害基礎年金も厚生年金法に基づく障害厚生年金も、原則として、保険料を納付している被保険者が所定の障害等級に該当する障害の状態になったときに支給されるものであって(国民年金法30条以下、87条以下、厚生年金保険法47条以下、81条以下参照)、程度の差はあるものの、いずれも保険料が拠出されたことに基づく給付としての性格を有している。したがって、障害年金を受給していた者が不法行為により死亡した場合には、その相続人は、加害者に対し、障害年金の受給権者が生存していれば受給することができたと認められる障害年金の現在額を同人の損害として、その賠償を求めることができるものと解するのが相当である。

 もっとも、子及び妻の加給分については、これを亡博信の受給していた基本となる障害年金と同列に論ずることはできない。すなわち、国民年金法33条の2に基づく子の加給分及び厚生年金保険法50条の2に基づく配偶者の加給分は、いずれも受給権者によって生計を維持している者がある場合にその生活保障のために基本となる障害年金に加算されるものであって、受給権者と一定の関係がある者の存否により支給の有無が決まるという意味において、拠出された保険料とのけん連関係が有るものとはいえず、社会保障的性格の強い給付である。加えて、右各加給分については、国民年金法及び厚生年金法の規定上、子の婚姻、養子縁組、配偶者の離婚など、本人の意思により決定し得る事由により加算の終了することが予定されていて、基本となる障害年金自体と同じ程度にその存在が確実なものということもできない。これらの点にかんがみると、右加給分については、年金としての逸失利益性を認めるのは相当ではないというべきである。

<コメント>

 本判決は、障害年金の逸失利益性を肯定した最高裁判決です。ただし、配偶者や子の加給分は、社会保障的性格の強い給付であることを理由に逸失利益性を否定しました。

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